2025.05.22
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親が老人ホームに入った後、実家はどうする?賃貸の判断と相続・税金の注意点を専門家が解説

高齢の親が老人ホームに入所したあと、空き家になった実家をどうするべきか。これは多くの家庭で直面する悩みです。放置すれば老朽化や防犯面のリスクが高まり、固定資産税もかかり続けます。とはいえ、売る決断はまだ早く、相続のことも考えるとどう動くべきか迷う方も多いのではないでしょうか。

この記事では、親が生存中かつ施設入所中という前提で、親の家を賃貸に出す場合のメリット・デメリット、将来の税務的な注意点、確定申告の義務について、わかりやすく解説します。

親の家を賃貸に出すメリット

親の家を賃貸に出すメリット

■ 維持費の補填が期待できる


空き家でも固定資産税、火災保険、管理費が発生します。賃貸にすれば、家賃収入でこれらの費用をまかなうことができ、さらに黒字になる可能性もあります。


 ■ 空き家放置によるリスク回避


空き家を長期間放置すると、老朽化だけでなく防犯上のリスクや行政指導(特定空家指定)につながる可能性があります。賃貸により人が出入りすることで、これらのリスクを大きく減らせます。


■ 相続時に「貸家評価」で税負担が軽くなることも


他人に家を貸していると、相続税の評価上、建物は「貸家」、土地は「貸家建付地」として扱われ、評価額が下がる仕組みがあります。


  •  建物:固定資産税評価額の30%減
  •  土地:地域により異なるが、20%前後の減額が一般的

賃貸に出すデメリットと注意点

賃貸に出すデメリットと注意点

■ 一度貸すと簡単には戻せない


賃貸契約を結ぶと、借地借家法によって借主の居住権が強く保護されるため、親が「また住みたい」と希望しても、すぐに退去を求めることは困難です。貸し出した後は、自由に使えない資産となる覚悟が必要です。


■ 初期費用・管理の負担がかかる


古い家を賃貸に出すには、リフォームや設備補修が必要になることが多く、数十万〜百万円単位の費用がかかる場合もあります。さらに、遠方で管理が難しい場合は、不動産管理会社への委託が必要となり、毎月の管理費も発生します。


■ 将来使えなくなる可能性のある制度


短期的に家賃収入が得られる一方で、将来的に使えなくなる相続税の特例がいくつかあります。代表的なものは次の2つです:


✅ 小規模宅地等の特例(最大80%減)

これは、親が住んでいた土地に適用される大幅な評価減ですが、親が住まなくなり、他人に貸していた場合は適用対象外になる可能性があります。


✅ 空き家の譲渡所得3,000万円控除

親が一人暮らしで住んでいた家を、相続後に売却する場合に使える特例です。 ただし、相続前に第三者に賃貸していた場合は対象外となるケースがあります。


➡ 賃貸に出すことで「今の収入」は得られますが、「将来の節税」を失う可能性があるということを理解しておく必要があります。

賃貸収入と確定申告の基本

賃貸収入と確定申告の基本

■ 家賃収入は確定申告が必要


家を貸すということは、家賃収入を得るということ。これは「不動産所得」として扱われ、原則として確定申告の対象になります。


  •  親が家の名義人で、家賃も親名義の口座に入るなら、親が申告義務を負います。
  •  認知症などで判断能力がない場合は、成年後見人が対応する必要があります。
  •  家族信託などを利用している場合は、受託者(例:子)が管理・申告するケースも。


■ 白色申告・申告不要のケースもある


実家1軒だけの賃貸であれば、青色申告ではなく白色申告での対応が可能です。さらに、次の条件を満たす場合は申告不要になるケースもあります


家賃収入 − 経費(固定資産税、保険料、修繕費など)が:


  •  給与所得がある人= 年間20万円以下
  •  給与所得がない人(例:年金のみの親など)=年間48万円以下


ただし、収入が少なくても、帳簿の作成義務は生じます。「申告しなくてもよい」≠「何もしなくていい」ではない点に注意が必要です。



➡ 賃貸に出す前に、申告と帳簿づけの方法を確認することが重要です。

専門家の視点:今と将来を見据えた判断を

専門家の視点:今と将来を見据えた判断を

■ 出口戦略を考えてから貸す


賃貸は契約上の制約が多く、途中での解約や売却の妨げになることもあります。「今の収益」だけでなく、「将来の節税」や「相続対策」とのバランスをよく考えることが重要です。親の希望や家族内の意見も踏まえて、柔軟かつ長期的な視点で判断しましょう。


■ 空き家管理・家族信託も選択肢に


すぐに賃貸に出すことに不安がある場合は、空き家管理サービスを利用して建物の維持をしつつ様子を見るという方法もあります。また、親が元気なうちに家族信託を結んでおけば、将来的な管理や資産活用がスムーズに行える体制を整えることができます。

【まとめ】親の家をどうするかは「今」と「将来」のバランスがカギ

【まとめ】親の家をどうするかは「今」と「将来」のバランスがカギ

親の家をどうするかという問題に正解はありません。賃貸によって収益化できる可能性はありますが、それによって使えなくなる制度や、将来の相続計画に影響を与えるリスクもあります。短期的な利益に飛びつくのではなく、「今」と「将来」の両方の視点から冷静に判断することが大切です。

専門家と相談しながら、ご家族にとって最善の選択肢を導き出していきましょう。

この記事を書いた人

小川 和哉 | ファイナンシャルプランナー

資産運用、保険、住宅ローンなど幅広い分野に精通し、個人の家計相談に加え、個人事業主や副業を行う方への記帳指導・経理支援にも力を入れており、実務に直結する実践的なアドバイスを提供。ライフスタイルに応じたオーダーメイド設計と、将来を見据えた長期的なサポートを重視し、目先の利益にとらわれない提案が好評。
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