成年後見制度を使う前に知るべき7つの落とし穴と不動産売却の注意点【FPが解説】
親が老人ホームに入った後、実家の売却を考える場面は多くあります。その際、本人の判断能力が低下している場合には「成年後見制度」を利用しなければ売却ができないケースもあります。
しかしこの制度には思わぬデメリットや制約があり、うまく活用しないと不動産を不本意な価格で売却せざるを得ない可能性もあります。
この記事では、成年後見制度の概要と問題点、不動産売却との関係、代替手段や防止策についてファイナンシャルプランナー(FP)の視点から詳しく解説します。
成年後見制度とは?:判断能力が低下した人の支援制度
成年後見制度とは?:判断能力が低下した人の支援制度
成年後見制度は、認知症や知的障がい、精神障がいなどにより判断能力が低下した人を法律的に保護する制度です。本人に代わって後見人が財産管理や契約行為を行います。
制度は大きく分けて次の2種類があります。
種 類 | 特 徴 |
---|---|
法定後見 | 家庭裁判所が後見人を選任する。本人の判断力がすでに低下している場合に利用。 |
任意後見 | 本人が元気なうちに、信頼できる人を後見人として指定しておく制度。発動には公正証書が必要。 |
【注意点】成年後見制度で不動産が安く売られてしまう理由
【注意点】成年後見制度で不動産が安く売られてしまう理由
判断能力が不十分な方の不動産を売却する場合、後見人が裁判所の許可を得て行う必要があります。しかしこの過程で、以下のような問題が生じやすくなります。
■ 安全重視のため、市場価格よりも安く売られることがある
後見人の最優先事項は「損をしないこと」です。
- 不動産を高値で売却するには時間や交渉が必要ですが、それがリスクと見なされ、避けられる傾向にあります。
- 「多少安くても安全な買い手に売却し、裁判所の許可を得る」という方法が取られることがあります。
■ 裁判所の許可が必須 → 柔軟な判断が難しい
後見人が不動産を売却するには、家庭裁判所の許可が必ず必要です。この許可には以下のような制約があります。
- 裁判所は「安全第一」で判断するため、流動性やタイミングを考慮した柔軟な対応が難しい。
- 相場より安くても、「確実な売却」が優先され、許可されることがある。
■ 入札や相見積もりが行われないこともある
通常の売却では、相見積もりや競争入札で価格を高めようとします。しかし、後見制度のもとではこのような市場原理に基づく売却努力がされないケースもあります。
成年後見制度のデメリットとは?7つの注意点
成年後見制度のデメリットとは?7つの注意点
成年後見制度には、不動産売却以外にも注意すべきポイントがあります。
1 本人の意思が尊重されにくい
- 一度制度が開始されると、本人の意思よりも後見人の判断が優先されます。
- 財産の使用や契約の自由が大きく制限されます。
2 原則として制度は一生続く
- 一時的な認知機能の低下でも制度が開始されると、回復しても簡単には終了できません。
3 家族が後見人になれない場合も多い
- 家族が希望しても、家庭裁判所が第三者(弁護士・司法書士)を選任することが多いです。
- その場合、毎月報酬が発生し、本人の財産から支払われます(年20万~数十万円)。
4 後見人の交代が難しい
- 専門職の後見人が不適切な対応をしていても、裁判所がすぐに動かないケースがあります。
5 柔軟な資産運用ができない
- 株式投資や不動産活用など、リスクを伴う行為は原則NG。
- 大きな契約には家庭裁判所の許可が必要で、時間と手間がかかります。
6 報酬が本人の負担になる
- 弁護士・司法書士などが後見人になった場合、報酬は本人負担となり、財産が目減りします。
7 地域や裁判所によって制度の運用が異なる
- 運用にバラつきがあり、不公平感が生じることもあります。
成年後見制度の代替手段:本人の意思を尊重する方法
成年後見制度の代替手段:本人の意思を尊重する方法
成年後見制度を回避しつつ、財産管理をスムーズに行いたい場合は、以下のような方法も有効です。
制度は大きく分けて次の2種類があります。
選 択 肢 | 特 徴 |
---|---|
任意後見制度 | 元気なうちに信頼できる人を後見人に指名できる。発動には公正証書が必要。 |
家族信託(民事信託) | 財産の管理方針を本人の意向に沿って設定できる。柔軟な運用・売却が可能。 |
日常生活自立支援事業 | 社会福祉協議会などが支援。軽度なサポートに向いている。 |
不動産を「不本意に安売りしない」ためにできる対策
不動産を「不本意に安売りしない」ためにできる対策
以下の対策を取ることで、判断能力が低下した後でも「自分の希望に近い形」で不動産を扱うことができます。
対 策 | 説 明 |
---|---|
任意後見制度の活用 | 元気なうちに信頼できる人を後見人に指定しておくことで、意思を反映しやすくなる。 |
家族信託の利用 | 財産の運用・売却方針を事前に決めておける。不動産の売却方針も設定可能。 |
遺言や売却条件の明文化 | 「売るタイミング」「価格帯」「方法」などを公正証書などで具体的に残しておく。 |
【まとめ】成年後見制度を選ぶ前に知っておきたいリスクと準備
【まとめ】成年後見制度を選ぶ前に知っておきたいリスクと準備
成年後見制度は本人を守るための大切な制度ですが、不動産の売却や財産管理においては制約が多く、柔軟な対応が難しいのが現実です。
特に、
- 不動産をなるべく高く売却したい
- 家族が主体となって管理したい
- 本人の希望を最大限に反映したい
といった希望がある場合は、任意後見制度や家族信託、遺言などの準備がとても重要です。 これらは親が元気なうちにしておかなければいけないため、早めに信頼できる専門家に相談し、最適な制度選択と備えをしておきましょう。